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第141問 翻訳技術の問題

次の引用を読んで、第1文を訳すとしたら最も自然だと思われるものを下の選択肢の中からひとつ選んでください。

Look for patterns. Why do you take the same road to work every day? Is there another way to get where you are going? Do you have to go at all? Is a day of rest more important than doing what's expected of you? Do you care what others think? (from "Dancing Moons" by Nancy Wood)

a. パターンを探しなさい。
b. 模範を期待しろ。
c. 原型を進んで受け入れよ。
d. 決まりきったこと、疑いをもたずにしていることについて考えてみよう。


解答・解説

      

正解は d. の「決まりきったこと、疑いをもたずにしていることについて考えてみよう。」です。

この訳は講談社刊『今日という日は贈りもの 』(井上篤夫訳)から引用しましたが、原文をじっくり読み込んで考え抜いた実によい訳だと思います。原文の Look for patterns. を読む限りでは、a. でも b. でも c. でも間違いではありませんが、課題文の段落全体を読むと、d. しか正解がないことが分かるでしょう。

このように、詩的な内容のエッセイや文学作品を訳す場合には、自分なりに深く読み込んで、時には大幅に言葉を補ってあげる必要のある箇所があるのです。「大幅に」と書きましたが、沢山補えばそれでよいというわけではなく、冗長にならないよう配慮して必要最低限の言葉を選ばなければなりません。その点で、井上篤夫さんの訳はかなり時間をかけて考え抜き推敲を重ねた訳だと思います。井上さんのこの段落全体の訳をご紹介しておきましょう。

「決まりきったこと、疑いをもたずにしていることについて考えてみよう。あなたは仕事に行くのになぜ毎日同じ道を通るのだろう? 行こうとしているところに行くには他の道はないのだろうか? そもそも行かなければならないのだろうか? 人から期待されることをするよりも、一日休むことのほうが重要ではないだろうか? あなたは他の人がどう思うかが気になりますか?」

このように訳者が著者の意図をくみ取って言葉を補った方が、著者の言いたいことがよりよく伝わるケースが見られるのは、なにも詩的な要素の濃い本だけではありません。最近筆者らが訳した本『リファクタリング・ウェットウェア──達人プログラマーの思考法と学習法』もそうでした。プログラマーの思考法や学習法を飛躍的に向上させる秘訣を紹介している本なのですが、認知科学や神経科学、心理学の世界にも踏み込むと同時に、日常の卑近な例も分かりやすく引き合いに出し、さらにはジョークもまじえて面白く論じていくため、字面をただ日本語に直しただけでは著者の意図がとうてい正しく伝えられない本だったのです。そのため、翻訳の過程でも推敲の過程でもプログラミング関係の他の本とはまた違う作業が求められました。

もっとも、主として情報や事実を伝えるだけの文章を訳す際も、「言葉を補う操作」が必要な箇所は多かれ少なかれあると思います。程度の差でしょう。いずれの場合も、「原文が言いたいことを日本語でできる限り正確、忠実に表現するとしたら、どんな表現がよいか」という翻訳者としての基本姿勢を頼りに判断すればおのずと要不要が分かると思います。

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